ギフティは2024年3月15日(金)、株式会社コロプラや株式会社サムザップ、株式会社スクウェア・エニックス、株式会社MIXI、Bushiroad International Pte. Ltd.など、著名企業のゲームプロデューサー・マーケターらを招き、座談会を開催。昨今のソーシャルゲーム業界で有効なファンマーケティングのポイントなどが語られました。
なお、前編である本記事では、各企業からの事例共有セッションを、後編では「2023年のXを巡る潮流」などを議題としたディスカッションの様子をまとめています。
ファンマーケ実現には2つの段階が存在する
東京・五反田にあるギフティのイベントスペースで行われた本イベント。18時の開場とともに、訪れた参加者で会場は次第に埋まっていき、温かい拍手と共に座談会は幕を開けました。
登壇者は、コロプラのディレクターである川合氏、サムザップの運上氏、スクウェア・エニックスの村上氏、そしてMIXIの大槻氏です。ファシリテーターはBushiroad Internationalの森下氏が務めました。
森下氏によると、ファンマーケティングのアプローチには、主に2つの段階があるといいます。第1段階は「ユーザーをファンに変えること」。第2段階は「ファンのロイヤルティをさらに深めること」。そして、それぞれのフェーズで成果のあった各企業の事例が共有されました。
Bushiroad International Pte. Ltd. Head of Mobile 森下明氏
コロプラが実施したオリジナルIPのファン獲得法とは
まず、ユーザーをファンに変えた事例として、スマートフォン向けゲーム『とらべる島のにゃんこ』の施策を川合氏が紹介しました。
株式会社コロプラ 『とらべる島のにゃんこ』ディレクター 川合規文氏
2023年9月にサービスを開始した同タイトルでは、リリースのタイミングでSNS(X、Instagram)やアプリ内での友達紹介キャンペーンを実施。その景品に特徴があったのです。
ゲームの世界観とリンクさせながら、ユーザーに心から“欲しい”と思ってもらえるようにするべく、「にゃんこ」をプリント・刺繍したキャリーケースやランチボックス、トートバッグ、タオルケットなどを用意したのです。その結果、社内外共に反応は良く、「可愛い」「絶対欲しい」などの声が挙がったといいます。
「にゃんこ」がプリント・刺繍されたタオルケットなど
また、『とらべる島のにゃんこ』を別のユーザーに紹介すると、ゲーム内のアイテムがプレゼントされる友達紹介キャンペーンも併せて実施。ではなぜ、友達紹介キャンペーンにしたのでしょうか。
川合氏「理由は、ターゲット層にありました。『とらべる島のにゃんこ』は30代以上の女性などライトユーザーをメインに据えていたので、『人からの推薦』の方が広告などよりもインストール促進につながる、と踏んだのです。その結果、友達紹介の経路においても効率良くユーザーを獲得することができました」
※ギフティが支援したコロプラ様の施策の詳しい内容に興味のある方は以下のページをご覧ください。
・ギフトの企画と手配を実施。ゲームの世界観を体験できるギフト×SNSキャンペーンで新規ユーザー獲得・認知拡大を図る
・新規ゲームアプリリリースに際し、友達紹介キャンペーンを実施。Referral(友達紹介システム)を利用することで、開発負担を最小限に抑えての実施が可能に
MIXIが制作したファンへの謝意を示す「段位パーカー」
次は、ファンのロイヤルティを一層高めた事例として、大槻氏がMIXIの『共闘ことばRPG コトダマン(以下、コトダマン)』の5周年キャンペーンを紹介。この施策の肝は、ユーザーへの恩返しの意味を込めた「段位パーカー」にありました。
株式会社MIXI コトダマン事業部 部長/プロデューサー 大槻一彦氏
コトダマンは2018年よりサービス提供を開始したスマートフォンアプリゲーム。文字を組み合わせて「ことば」を作りつつ、ステージクリアを目指す
「段位」とはユーザーのレベルに相当するやり込み要素のひとつ。特に、一定の上位段位に到達すると、必要な経験値が急増するため、かなりの根気が要求されます。ですが、1100段に到達するユーザーが現れたことから、運営側は感謝の意を込めて、当時1100段を超えたトップユーザー2人(当時)にパーカーをプレゼントしたのです。
5周年記念グッズとして発売された「段位パーカー」。当時、1100段に到達していたユーザー2名には特別仕様の1100段パーカーが制作、プレゼントされた
大槻氏「1000段になったからといって特に見返りを用意していなかったのに、達成してくれた人がいる。これはもう、ひとえにユーザーからの“愛情”でしょう。そうした愛情に真摯に応えるのであれば、やはりパーカーの質にもこだわるべきだと思いました。
そこで、安価なものではなく、生地の質感や耐久性にこだわった上質なものをギフティ協力のもと、制作させていただきました。最近のオフラインイベントでも実際に着て来られる方もいらして、ユーザーさんに喜んでいただけたのでは……と嬉しく思っています。僕も自腹で購入し、ユニフォームとしてインタビューやイベント登壇時には必ず着ています(笑)」
※ギフティが支援したMIXI様の施策にご興味のある方は以下のページをご覧ください。
・10年、20年先も愛されるゲームを目指して。スマートフォンアプリゲーム『共闘ことばRPG コトダマン』の、ロイヤルユーザー向け5周年施策とは
スクエニが語る FFVファンも唸るギフトキャンペーン
次に、スクウェア・エニックスの村上氏が自社のサービス事例を紹介。それが、2023年5月に実施した、『WAR OF THE VISIONS ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス 幻影戦争』と『FINAL FANTASY V(以下、FFV)』のコラボキャンペーンです。
株式会社スクウェア・エニックス 第四開発事業本部 ディビジョン(Promotion) 村上亮真氏
これもキャンペーンの景品に特徴があったようで、FFVの登場キャラクターにちなんだものを設定したのです。具体的には、FFVの主人公バッツの相棒ボコ(二足歩行の黄色い大きな鳥)に関連した「乗馬体験ギフト」や、王女レナに関わりの深い飛竜関連で「ヘリコプターフライトギフト」、海賊ファリスの職業から「クルージングギフト」が用意されました。
乗馬体験やフライトギフト、クルージングなど非常にユニークですが、なぜこのようなギフトラインナップにしたのでしょうか?
村上氏「なぜなら、ユーザーの方々から“信用される存在”になりたかったからです。既存ファンの方々によりロイヤルティを高めてもらうためには、我々がファンから信用されなくてはならない。そのためにも、まずは共感を喚起する必要があると考えました。
そこで、このようなユニークなラインナップにしました。これにより、例えば、乗馬の体験ギフトの当選者には『そうそう!俺たちがリアルタイムでプレイしていたFFVのバッツはこんなキャラだった!』と感じていただきたかったのです。
ちなみに、ギフト選びの過程でギフティさんに協力を仰ぎました。元々、乗馬の体験ギフトやヘリのフライトギフトを提供されており、今回のキャンペーンに合わせて適宜カスタマイズしてくださったのです。我々はキャンペーン用コードをユーザー様にお渡しするだけで、後の事務局運営や商品発送等はギフティさんに全てお任せできたので、大変助かりました」
※ギフティが支援したスクウェア・エニックス様の施策にご興味のある方は以下のページをご覧ください。
原作IPコラボの効果を最大化するポイント
ここまで、ユーザーのファン化およびファンのロイヤルティ向上に成功した事例が紹介されました。次に、オリジナルIPと漫画・アニメといった原作のあるIPを活用した施策の違いについて、議論されました。まず、人気の原作IPとコラボしているサムザップの運上氏が、原作IPを活用した施策の特徴を語りました。
株式会社サムザップ マーケティング室/ファンマーケ 運上雅展氏
運上氏「特徴のひとつが『競合の存在』です。一般的に、自社のゲームタイトルの競合は他社のタイトルとなるでしょう。しかし、原作IPとコラボする場合、競合はしばしば原作そのものになることも。特に、昨今のゲームの広告クリエイティブは質が高く、ユーザーからすると原作の宣伝と見分けがつかないこともあるでしょう。そのため、ゲームのプロモーションがちゃんとアプリのダウンロードにつながるよう、情報を出すタイミングや話題化の切り口などを精緻に練る必要があります」
また、原作IPとのコラボでは、版元や製作委員会といったステークホルダーの意見も重要となってきます。そこで、森下氏が「新しいタイトルや施策をスムーズにローンチするために、彼らとどのように渡り合っていけば良いか?」と運上氏に質問。運上氏は次のように答えました。
運上氏「一例として、特に版元の方が気にされるのが『キャラクター間の公平性』でしょう。しかし、キャラクター人気には自然と偏りが生じます。これを踏まえ、人気が偏らないような施策内容にする必要があります」
転じて、コトダマンではオリジナルIPを擁しつつ、アニメ等のIPコラボも積極的に行っており、2023年からは毎月コラボキャンペーンを実施。2023年10月には50か月連続コラボも達成しました。
大槻氏によると、アニメ等のIPとのコラボの鍵は「作品へのリスペクト」だといいます。例えば、オリジナルIP、コラボIPそれぞれのトンマナが異なっている場合、コラボIPの再現性を優先します。
一方、オリジナルIPの特徴は「運営側が自由にブランディングできることだ」と大槻氏。そこでコトダマンで行っているのが「オリジナルIPのデザインのテイストに若年層も受け入れられるテイストを追加していくこと」だそうです。
大槻氏「つい、既にロイヤルティの高まったユーザーに合わせてしまいがちですが、コトダマンではあえてそうしないケースを作ったり、バランスに気を付けています。なぜなら、未来10年と続くタイトル運営を目指す上で新規ユーザーの流入や、さらなる高ロイヤルティユーザーへの成長も目指しているからです。
既存の高ロイヤルティユーザーのみにアジャストした場合、当然のことながら新規ユーザーからの反応は芳しくありません。それよりも、市場感や流行を意識しながらデザインした方が、中長期的に見るとコミュニティも厚くなり、結果的に既存の高ロイヤルティユーザーが長くファンでいてくれる事につながります」
ユーザーの日常に“溶け込む”インセンティブを
また、運上氏は、原作IPを活用した施策成功の鍵として「ファン理解」を挙げました。原作IPには、既に形成されたファン文化があり、そこで、ファンがどのキャラクターに対し、どの程度推し活をしているか、など原作の既存ファンの実態把握が重要だと説きました。
大槻氏もまた、ユーザー理解の必要性について言及。ユーザー行動のデータやコミュニティ内での発言を通じて、彼らが何を面白いと感じているのかを探ることが次の一手を考える鍵になる、とのこと。
大槻氏「コトダマンもそうでしたが、もう3年も同じタイトルを運営していると、施策が似通ってきます。その打開策として『新しいプロダクトを開発しよう』となりがちですが、新しいプロダクトを作っても、必ずしも市場ニーズにマッチするとは限らない。つまり、定常コンテンツになり得ないのです」
そうしたマンネリ化を打破するためにも深いファン理解が不可欠です。コトダマンではユーザー間で話題になっていた1100段にフォーカスしました。さらに、そうしたファン理解の上で企画されたインセンティブは、ゲーム内に留めるべきではないでしょう。
なぜなら、コロナ禍が明けた今、屋外にもエンターテインメントがあふれているからです。それゆえ、ユーザーの日常により“溶け込んだ”インセンティブが求められています」
日常に“溶け込んだ”インセンティブーーそれは、今回紹介された『とらべる島のにゃんこ』の「トートバッグ」やコトダマンの「段位パーカー」、FFの体験ギフトなどもその一例かもしれません。
ここまで、事例共有のセッションを中心にお届けしました。後編では、ディスカッションの様子をお伝えします。