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2024/10/01

『世界は贈与でできている』の著者に聞く 人生を豊かにする「贈与」の力とは

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2024年8月19日(月)、ギフティは『世界は贈与でできている』の著者であり、「贈与」の行動原理を研究する近内悠太さんを講師として招聘。ギフティ社員を対象に贈与という行為への学術的なアプローチとその研究結果の一部を解説いただくとともに、ギフトとの関連性についてギフティ代表らと議論しました。

「贈与」という行為が送り手と受け手の双方にどのような人間行動の原理をもたらすのか。本記事では、その講演の一部をご紹介します。

似た言葉ではあるが、本質的に異なる「交換」と「贈与」

東京・五反田にあるギフティのイベントスペースで行われた今回の講演会。近内さんは、まず「交換」と「贈与」の違いについて、具体例を交えながら解説しました。

講演会の様子

講演会の様子

最初に取り上げたのは「交換」についてです。例えば、コンビニでパンやお茶を購入する行為は「交換」に該当します。ここでは、お金と商品という明確な対価が存在し、店員と客の間には「あなただからこの商品を売ってあげる(買わせてもらえる)」という個人的な感情は介在しません。誰が相手であろうと成立する、純粋な取引です。

この「交換」を象徴する社会的事例もあるといいます。

1990年代、スイスでは原子力エネルギーに大きく依存しており、ある小さな村が核廃棄物の処理場建設候補地に選ばれていました。事前の調査では、住民の半数以上が建設に賛成していると報告されていましたが、経済学者たちが調査の一環として、もし建設する代わりに「多額の補償金を支払う」という条件があったとしたらどうかとアンケートをとったところ、賛成者は一気に半減してしまったというのです。

一般的には、報酬を提供されれば、嫌なことでも引き受けると考えられますが、なぜこのような逆転現象が起こったのでしょうか。近内さんはこの結果について次のように説明します。

『世界は贈与でできている』の著者で「贈与」の行動原理を研究する教育者・哲学者の近内悠太さん

『世界は贈与でできている』の著者で「贈与」の行動原理を研究する教育者・哲学者の近内悠太さん

近内さん「住民たちは『自分たちの国が原子力に依存している以上、核廃棄物はどこかに貯蔵しなければならない』という公共心、市民としての義務感から賛成していたのです。しかし、補償金が提示されたことで『お金で解決しようとするなら、言い換えれば、お金と交換しようとするならば、他の村で良いのではないか』という感情が生まれてしまったのだと思います」

つまり、報酬や罰則などのインセンティブによって人の行動や感情をコントロールしようとする「交換」の論理では、必ずしも人を動かせるわけではないことを示唆しています。

これに対し「贈与」とは、お金で買うことができず、他者から“与えられる”、“授けられる”ことによってのみ得られるものです。その身近な具体例として、近内さんは「時間」を挙げます。

近内さん「よく『飲み会は何の意味があるのか』という議論がなされますが、実はお互いにお互いの『時間』を贈り合っている、という重要な人間的行為なのです」

そして、世の中の「ギブ&テイク」の行為には「交換」と「贈与」の二つの行動原理があり、そのどちらかに偏ることなくバランスが必要だといいます。

近内さん「『誰でも良い』という『交換』の関係だけでは、社会は成り立ちません。社会は『互いを信頼し、助け合う関係性の総体』です。仕事で困ったときに『君と私の仲だから任せてくれよ』といってくれる仲間がいるのは、見返りを求めない『贈与』の関係があるからです。そして、贈与を通じて両者の信頼関係はさらに強化されるのです」

負い目を抱かず、素直な感謝を引き出すポイント

「贈与」は人と人の間に強い絆を生む一方で、ときに「負い目」や「呪い」とも言える側面をもたらすことがある、と近内さんは指摘します

例えば、高額なプレゼントを受け取った際にお返しに悩んでしまう場面や、旅行のお土産をもらい、「次は自分が旅行に行ったときにお返ししなければ」と感じること。これらはまさに「贈与の呪い」の一例です。

この「呪い」を避けるために、贈り手が意識すべき3つのポイントとして近内さんが挙げるのが「可愛げのある渡し方」「ユーモア」そして「爽やかさ」です。

講演中の様子

講演中の様子

近内さんは、スタジオジブリの映画『となりのトトロ』に、その良い例があるといいます。

近内さん「『となりのトトロ』のワンシーンで、主人公の少女サツキに、地元の少年カンタがぶっきらぼうに傘を差し出す場面があります。カンタは、びしょ濡れになりながら立ち去りますが、その不器用さや健気さが『可愛げ』を生んでいます。この3つのキーワードがあれば、贈り物をもらって受け手も素直に『ありがとう』と思えるのではないでしょうか」

AI活用が進む時代 「贈与」の新たな文脈を提案する

続いて、ギフティ代表取締役の太田と、同じく共同代表の鈴木が登壇し、近内さんとパネルディスカッションを行いました。

後半のパネルディスカッションの様子

後半のパネルディスカッションの様子

まず、テクノロジーの進化と「贈与」の関係について議論が交わされました。海外では、AIがギフトの分野にも進出しており、商品のレコメンドやメッセージのテンプレート作成を担うサービスも登場しています。しかし、こうしたサービスを通じてギフトを贈ることは、果たして「贈与」といえるのでしょうか。

近内さんは「相手にAIを使ってギフトを贈ったことが分からなければ『贈与』に含まれるのでは」と話す一方、このようなサービスが浸透し「プレゼントは、購入履歴などのビッグデータからAIがレコメンドしたものを贈り合うもの」というのが共通理解になってしまうと「人々は贈り物をしなくなるのではないか」と予想します。

近内さん「贈り物をもらったとき、そのモノ以上に『私のことを思って選んでくれたんだ』『昔欲しいといっていたのを覚えていてくれたんだ』という気持ちになることが嬉しかったりしますよね。そこをAIが合理的でシステマチックに選定するようになると、贈り物がつまらなくなるから、人は贈り物を徐々にしなくなるのではないでしょう。ギフトの選定は送り手にとって最も苦労するところではありますが、その非合理で、一見無駄に思えるプロセスこそが『贈与』という行為においては重要な意味を持つのです

さらに、日本における伝統的な儀礼にも議論は広がります。

近年、年賀状やお中元、お歳暮などの「儀礼」を廃止する企業が増加しています。その背景には「環境への配慮」や「経費削減」「業務効率化」といった様々な理由があるでしょうが、鈴木は、儀礼が廃れていっている根底には次のような理由もあるのではないか、と考察します。

ギフティ代表取締役の鈴木達哉

ギフティ代表取締役の鈴木達哉

鈴木「最初は『何も贈らない』ことがパラダイムだったのが、やがてお中元・お歳暮の文化が生まれ『上司には必ず送るもので、こういうモノを贈っておけば合格点』という、一種のルールへと変容し、逆に贈ることがパラダイムになった。つまり、贈ること自体が形式化し、真の意味での『贈与』ではなくなったことが、廃れていった原因ではないでしょうか

この流れを受けて、太田はデジタルギフトサービスにおける「定番化」のリスクについて触れます。

ギフティ代表取締役の太田陸

ギフティ代表取締役の太田陸

太田「私たちも社内で従業員同士が誕生日にデジタルギフトを贈り合っていますが、定番化しつつある商品があります。これが、お中元やお歳暮のように定番化して、システム化されてしまうと思うと少し怖いですね。常に新しい文脈を作り続ける必要があるのかなと思います

近内さん「そうですね。贈り物が廃れていくというよりも、システム化されていない新しいギフトの文脈を提案できれば、むしろ広がっていく可能性はあると思います」

その新しい文脈の一例として、近内さんは、デジタルギフトにアナログな手紙を添えることが、そのギフトを特別なものにするポイントになると助言します。

近内さん「これだけ技術が進歩しても、手書きの手紙は特別な存在として残り続けると思います。デジタルギフトの魅力はそのカジュアルさにありますし、その点は大切にすべきですが、そこに『手紙を添える』という一手間を加えるだけで、贈り物は陳腐化しないのではないでしょうか。

 長文である必要はなく、たった1行や2行でも『自分のために時間をかけてくれた』という気持ちが伝わるメッセージがあれば十分です。良い例として、中高生の間では『キットカット』のパッケージ裏にメッセージを書いて、クラスメイトの誕生日に贈る文化があるそうです。数百円のコンビニのお菓子でも、メッセージを添えることで特別な贈り物に変わる、象徴的な例だと思います」

資本主義のすき間を埋める「贈与」

議論は、近内さんが著書でも触れている「贈与」と「資本主義」の関係にまで広がります。「贈与」は「交換」と異なり、資本主義の根幹である「お金」では得られないものです。そのため、両者は対立するように見えるかもしれません。しかし、近内さんはこれに異を唱えます。

近内さん「資本主義は私たちに利便性や豊かさをもたらしましたが、それだけでは生きている実感が得られず、心が満たされないのも事実です。そうした『生きる実感』や『人間らしい温かさ』を補完するのが、まさに『贈与』の役割です

太田らに説明する近内さん

さらに近内さんは、現代のテクノロジーと人間の関係についても語ります。

近内さん「1990年代後半、インターネットの処理速度は私たちの身体スケールに比して遅いものでした。しかし、今ではその状況は逆転。インターネットの処理速度に私たちの脳・身体が追いつけなくなっています。その結果、便利さは得られても、何かが欠けているように感じるわけです」

欠けているもの。それは、限られた時間や労力を費やすことで得られる充足感です。そして、その不足を補完するのが、「一見無駄に思えるプロセス」にこそ価値がある「贈与」という行為なのです。

しかし、現実問題として、手書きで手紙を書くにしても1日に1,000通も書けません。「人間は効率性を求めながらも、情緒的な部分も大切にしたい生き物。その両立こそが、ギフティのビジネスの根底にある考え方です」と鈴木は語ります。

鈴木「手書きで手紙を書きたいと思っても、時間が取れずに、その気持ちが消えてしまうことがあります。『贈与』という行為を通じて、そうした瞬間や気持ちを失わないようにし、情緒や社会性を補完する。そういった姿勢で、これからもビジネスを展開していきたいと思っています」

太田はまた、贈り物の意義について次のように述べます。

太田「確かに、技術の発展で非常に便利な時代になりましたが、あまりに効率的すぎると次第に味気なくなってしまいます。一方、ギフトには自分は普段買わないものとの“出会い”、言い換えると『偶有性』『セレンディピティ』のような良さがあります。その結果、贈り物を通じて人生に新たな道が見えてくることもあるでしょう」

太田は「そういった偶然の出会いや人生の新しい道が見つかる経験が積み重なることで、『生きている実感』が生まれるのではないか」と述べ、パネルディスカッションは締めくくられました。

1時間に及ぶ本イベントはこれにて閉幕しました。デジタルギフトを中心としたサービスを展開するギフティにとって「贈与」は非常に身近なテーマ。近内さんの講演とその後のパネルディスカッションはギフティ社員にとって自社のサービスの意義を再確認し、今後の事業展開を考える上で大いに示唆を富むものとなりました。

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