企業型DCアプリの活用促進に、デジタルギフトを活用したキャンペーンを実施。“資産形成”という長期の目標を見据え、単発では終わらせない工夫とは?
多数の企業から企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)を受託している三菱UFJ信託銀行では、2021年6月、企業型DC加入者向けに、年金資産の残高確認や運用している金融商品の変更ができるアプリ「D-Canvas(でぃーきゃんばす)」をリリース。
このアプリが2022年にグッドデザイン賞を受賞したタイミングで、ダウンロード数やログイン数の増加、そして企業型DCへの関心をさらに高めるために、抽選で1万名にデジタルギフトをプレゼントするキャンペーンを実施。このキャンペーンは、加入者のみならず、企業型DCを導入している企業にもメリットを提供できたと評価されています。
そこで、今回のキャンペーンの目的と、企業・加入者双方にとってのメリットとはどのようなものだったのか、同社の受託財産企画部の土肥 彩佳さんと資産形成推進部の越阪部 和也さんにお話をうかがいました。
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D-Canvasの認知を高めることで、企業型DCへの関心を持ってほしい
今回のキャンペーンは「D-Canvas」のダウンロードとログイン促進を目的とした施策とのことですが、まずD-Canvasについて教えてください。
越阪部さん:D-Canvasは、弊社の企業型DCを導入している企業の社員のうち企業型DCに加入している加入者が利用できる企業型DC資産運用・管理アプリで、直近では約25万人にご利用いただいています。誰でもダウンロードして利用できるというわけではなく、利用できる方が限定されているという点が、一般的なアプリとは異なります。
土肥さん:D-Canvasは、確定拠出年金を“かんたん・便利に身近に感じていただけるアプリ”となっており、その実現のために、「生体認証でいつでもどこでもかんたんにログインできる」「ログインするとかんたんに現在のDC残高を確認できる」「自分に合った運用商品が提案されるので、現在運用している金融商品を変更したいと思ったら、アプリ内でかんたんに運用商品を変えることができる」という「3つのかんたん」が特徴となっています。
D-Canvasはグッドデザイン賞を受賞されたとうかがっています。どのようなところが受賞のポイントになったのでしょう?
土肥さん:アプリの特徴である「3つのかんたん」機能により、いままで企業型DCへの関心が薄く運用を始めていなかった加入者様のうち、アプリ利用により6割超が投資信託での運用を開始されたという、ユーザーの行動変容を促すことができた点が評価されました。
企業型DCは、加入者がみずから運用商品を選んで年金資産を運用する企業年金制度です。D-Canvasがリリースされるまでは、運用商品を変更するためには、加入者専用ホームページにログインした後、運用商品を変更するための別会社のページに移動する必要があり、非常に面倒でした。D-Canvasでは、この2つのページをAPIの機能を使って統合しているので、アプリの中で運用商品の提案から変更手続きまでをシームレスに完結することができます。現時点でこの機能は、銀行が提供しているアプリとしてはD-Canvasのみが実装しています。
「銀行で唯一」というところに、D-Canvasの優位性を感じます。ところで、そもそもD-Canvasを開発された目的は何だったのか教えてください。
(写真左)土肥 彩佳さん 受託財産企画部。WEBやアプリなどのデジタル接点を活用した、年金加入者の資産形成の支援に取り組んでいる。 (写真右)越阪部 和也さん 資産形成推進部。確定拠出年金の加入者に向けて、運用方法などの啓蒙を進めるために、教育コンテンツの制作やセミナーの開催などに取り組んでいる。
土肥さん:我々の部門のミッションは「資産形成を通じた社会課題の解決」です。しかし、その観点からすると、企業型DCは非常に課題が多い制度だと感じています。
というのも、自分が企業型DCに加入していることを忘れてしまっている、あるいは気づいてすらいない加入者様が少なくないのです。通常、企業型DCに加入するのは入社時ですが、入社時には、非常に多くの手続きをしなければなりません。企業型DCへの加入もその手続きのひとつですが、投資に関することと特に意識せず書類にサインして、気づいたら加入済みに。そしてそのまますっかり忘れてしまい、10年後に、「そういえば」と改めて見てみると、ずっと元本確保型でお金が眠ったままだったことに気がつくという状況が少なからずあるのが現状です。
これはやはり国民の資産形成の機会損失につながることですから、まずはアプリを通じて、自分が企業型DCに加入していることを思い出していただく。そして「運用なんてよくわからないな」という方でも、アプリの中で自分に合った運用商品が提案されることで、自然と資産形成に踏み出せる。そんなアプリを作りたいというのが最初の入口でした。
越阪部さん:掛金が自分の給料から天引きされているのであれば、もう少し意識されるかもしれませんが、会社の制度として入っていて、掛金を拠出するのも会社ということになると、どうしても忘れられてしまうんですよね。「年に1回送られてくる残高通知のお知らせさえ見ておけばいい」と考える方も多いのが実情ですから、企業型DCは自分のお金という意識を持っていただいて、もっと身近に感じてほしいというのが、我々の切実な願いです(笑)。
そこで、キャンペーン実施にいたったということでしょうか?
土肥さん:D-Canvasは2年前にリリースしたアプリですが、正直なところ「いったいどのくらい使っていただけるのだろうか」という不安もありました。それでもリリース初年は順調にダウンロード数を伸ばせたのですが、その後は企業型DCに関心を持っている利用者が一巡してしまい、なかなかダウンロード数が伸びなくなってきたのです。ちょうどそのタイミングでグッドデザイン賞を受賞できたので、ここで何か施策を打って、もういちどダウンロード数を伸ばしていきたいと考えました。
越阪部さん:ただ弊社には、加入者の方に直接連絡する術がありません。企業型DCは、スキームとしてはBtoBtoCになるので、我々の直接のお客様は、Bである企業様だからです。 D-Canvasをまだ利用されていない加入者様も多くいらっしゃるのですが、我々がその方々のメールアドレスを直接知っているわけではなく、企業様経由で、加入者の方々にアプリをプロモーションしていただく必要があります。
土肥さん:DCを導入されている企業様には、「社員の資産形成のサポートをしたい」「この会社で長く働ける安心感を提供したい」という思いがあるはずです。しかしそうは言っても、DCの活用を強制することもできないというのが、企業様にとっての悩みの種です。そこで、加入者様にとってわかりやすくメリットを感じられるキャンペーンがあれば、企業様がDC活用を社員にすすめる材料にもなります。
単発のみならず、長期を見据えたギフティの提案
そのような背景があったのですね。では、このようなキャンペーンを実施する会社はいろいろとあると思いますが、その中でギフティを選ばれたポイントはどこにあるのでしょうか。
土肥さん:ギフティさんのご提案は、「まずはギフトを使ってログイン数を増やしていきましょう」ということでした。この「ギフト」というのが、加入者様と企業様双方にメリットがあり、わかりやすかったというのがまずひとつあります。さらに、ご提案いただいたギフトの「giftee Box」も、職種や年齢もさまざまな方が加入している企業型DCにおいて、加入者様ご自身が欲しいものを幅広い商品の中から選べるため、魅力的でした。 実際、キャンペーンの内容は、4か月間の実施期間中にはじめてD-Canvasにログインした方の中から抽選で1万名様に、1万円分、1,000円分、200円分いずれかの「giftee Box」が当たるというものです。非常にシンプルで、メリットも感じやすいですよね。
ただ、D-Canvasのダウンロードやログインを促すだけの単発の企画は、別の会社さんからも提案がありました。その中で我々がギフティさんにお願いしようと考えたのは、さらに長期的な視点を持った提案をいただいたからです。
「長期的な視点を持った提案」とはどのようなことでしょう?
土肥さん:我々のお客様である企業型DCを導入されている企業様には、法令によって、加入者に対する投資教育が努力義務として課せられているのですが、D-Canvasの活用は、金融リテラシーを引き上げる投資教育の一部だと我々は考えています。そしてそれは当然、継続的に行う必要があります。ギフティさんからは、その仕組みの構築に関しても提案をいただいたのです。
具体的には、ポイント制度の導入です。例えば、「ログインをしたら、この投資コンテンツを読んでみましょう」「その次には、もう少し難しいコンテンツを使ってみましょう」といった具合に、投資リテラシーを引き上げていくインセンティブとしてポイント制度を導入すれば、D-Canvasを継続的に利用しながら投資教育が可能となります。そこが、年金というお客様との長期的なお付き合いをするビジネスをしている我々には、魅力的に感じられました。
長期と短期というふたつの視点があったということですね。では、今回のキャンペーン実施にあたって、作業の進め方などはいかがだったでしょう?
越阪部さん:企画が立ち上がって実施まで、およそ3か月くらいだったのですが、実はこれは、銀行にとっては非常に早い動きです。というのも、ギフトのような金券類を配るのは、銀行にとってはハードルが高いことで、法務上クリアしなければならない課題が出てきたり、ギフティさんのプラットフォームの安全性や情報セキュリティ体制の確認だったり、いくつもの厳しいチェックがありました。弊部として初のBtoBtoC施策だったこともあり、どのように告知物を作成するのかも手探りでした。それでもギフティさんは我々の問いかけに対してレスポンスが早く、丁寧に対応いただけたおかげでスムーズに準備を進めることができました。その結果、銀行としては異例のスピード感で実施まで持っていけたのではないかと思います。
わかりやすいメリットで、ダウンロード数、ログイン数ともに増加!
キャンペーンの成果はいかがでしたか?
越阪部さん:今回のキャンペーンは、D-Canvasのリリース後、2年目に実施したものです。別のアプリでの実績から考えると、2年目のダウンロード数やログイン数は、初年度より落ちるのが普通です。それが、今回のキャンペーンによって、初年度同様の実績を上げられたのではないかと感じています。
土肥さん:キャンペーン期間中に新規ログインされた方は4万人ほどいらっしゃいます。何のキャンペーン施策も打たなかった場合のログイン数の推移を予想していましたが、それと比較すると、1万6000人ほど上ぶれていました。またキャンペーン応募者も1万6000人ほどだったので、この数がキャンペーンの実質的な成果だろうと考えています。
このような数値的な成果もありますが、もうひとつ私が大きなメリットと考えているのが、企業様にもメリットを提供できたことだと思います。我々の持っているチャネルはBtoBであり、最終的に加入者様に動いてもらうためには、企業様に関与していただくしかありません。一方、企業様も加入者様にもっとDCに関心を持ってほしいと思っているものの、動いてもらう術がありません。
そのような状況にあって、今回のようなキャンペーンは、加入者様にとっては「D-Canvasにログインすれば何かもらえるかもしれない」という直接的なメリットがあり、企業様には、DCの加入者様にもっと関心を持ってもらうきっかけになります。 このように、誰にとってもデメリットのないプロモーションの仕組みをつくれたことは、大きな成果だったと思います。
現状を変えるための気づきがあったと言えそうですね。他に気づかれた点はありますか?
土肥さん:キャンペーン参加時に回答していただいたアンケートで、今までD-Canvasを使っていなかった理由について尋ねたところ「存在を知らなかった」という回答が大多数でした。今回のキャンペーンによって、そのような層には行動変容を促すことができたと思いますが、逆の見方をすると「D-Canvasのことは知っているけれど、面倒だからログインしていない」という層には、もしかしたら、まだあまりリーチできていないのではないかということも言えます。そのような層にアプローチしてログインを促すためには、ただキャンペーンを実施するだけではなくて、その方々にとって魅力的なギフトを用意したり、キャンペーンの伝え方を工夫したりするなど、追加の一手が必要であるという新しい課題も見えてきました。このようなことがわかったのも、キャンペーンの成果だと考えています。
さらに企業型DCへの関心を高められるようなポイント活用を検討
D-Canvasの活用を促進できただけなく、課題も見えてきたということで、とても意義のあったキャンペーンだったということですね。では今後、ギフティと進めたいとお考えの取り組みなどがあれば教えてください。
土肥さん:今秋から、企業型DCの加入者様だけでなくiDeCo(個人型確定拠出年金)の加入者様に向けてもD-Canvasの提供範囲を拡大しましたが、企業型DCの成功を踏まえて、iDeCoのキャンペーンもギフティさんにご相談しました。
また中長期的な観点で言えば、まさに先ほどお話したポイントに関することになります。アンケートで加入者様に今後欲しい機能についてうかがったところ、圧倒的に多かったのが「ポイント交換の仕組み」でした。その点で、ギフティさんの最初のご提案は的を射たものだったと思います。
ただ、BtoBtoCという仕組みの中では、ポイントを1杯のコーヒーに交換できた場合に、個人である加入者様はうれしくても、企業様から見ると、特にうれしいことはないですよね。そこで、全員が喜ぶギフトは何かというと、企業様と加入者様の双方にメリットのある体験なのではないかと思います。例えばスキルアップにつながるコンテンツや、ウェルビーイングにつながる健康ギフトなどを交換対象にできたらと考えています。その点、ギフティさんはすでに体験ギフトなども展開されているので、おおいに期待しています。