

“現金orデジタルギフト”の選択も可能に。国の方針に対応した設計で、日進市が実現した継続的な子育て支援とは
愛知県日進市では、国の「出産・子育て応援交付金」を活用し、妊娠・出産・子育て期を切れ目なく支える「日進市 出産・子育てまるっと応援事業」を展開しています。 2024年度までは給付する金品の内容は自治体に一任されていましたが、2025年度からは現金振込を含む現金その他確実な支払方法を選択肢に含むことが義務化されました。日進市は規則に則り現金振込かデジタルギフトボックスかを選べるようにして交付していますが、利用者の多くはデジタルギフトボックスを選択。これにより交付がスムーズになり、市民サービスにさらにリソースを割くことができています。
日進市の「日進市 出産・子育てまるっと応援事業」について、日進市健康こども部健康課の小川まゆみさんと青山絵莉子さんにお話しいただきました。

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愛知県日進市



国の方針で変化するルールにも、柔軟に対応
健康こども部健康課の役割とお二人の担当業務を教えてください。

愛知県日進市 健康こども部 健康課 統括保健師 小川まゆみさん
小川さん:健康課では、乳幼児健診や予防接種、健診・がん検診、健康教育・相談、健康づくりなど、あらゆる世代の健康を支える事業を担っています。2024年度からは子どもを取り巻く家庭全体への支援強化を目的に、これまでの健康福祉部から分かれて子ども関連の部に加わり健康こども部が新設されました。これにより世代をまたいだ包括的な支援体制ができています。私はそのなかで保健師の統括や健康に関する事業の調整・サポートの担当や、新規事業の立ち上げなどにも携わっています。「出産・子育て応援交付金事業」におけるデジタルギフトの導入も担当しました。
青山さん:私は2024年度まで「出産・子育て応援交付金事業」に関する申請受付やギフト配布業務などを担当していました。今年度からは高齢者の予防接種や災害関連の業務を担っています。
「日進市 出産・子育てまるっと応援事業」の概要を教えてください。
小川さん:国の交付金を活用し、妊娠期から出産・育児期まで切れ目のない支援を行うもので、相談支援と経済的支援の2本柱で構成されています。日進市は経済的支援を「ヘルピーギフト」と名づけ、妊娠届出後や出産後のタイミングでお渡ししています。給付方法は、現金振込もしくはデジタルギフトのどちらかの選択が可能です。なお、デジタルギフトを選択した場合には、日進市のオリジナル仕様にカスタマイズしたデジタルギフトボックスから、好きな商品を選べるようになっています。
日進市は子育て世帯の多い地域で、国が「出産・子育て応援交付金事業」に取り組む前から妊娠・出産にまつわる相談支援を手厚く行っていました。国の交付金によりさらに充実した経済的な支援も行えるようになったということです。
今回活用している「出産・子育て応援交付金」は2023年度から始まった事業と聞いています。2025年度で3年目となりますが、何か変化はあったのでしょうか。

愛知県日進市 健康こども部 健康課 保健師 青山絵莉子さん
青山さん:たとえば給付方法について、年度ごとに国の方針変更がありました。2024年度までは現金・デジタルギフトのどちらの給付方法でも問題がありませんでした。しかし2025年度からは法制度化に伴い、現金給付の選択肢を取り入れることが義務化されています。日進市では国のガイドラインに準拠した形で、2023年度は現金で、2024年度はギフティのデジタルギフトで給付対応をしています。2025年度からは現金給付の義務化に伴い、現金とデジタルギフトの選択制を導入しました。
デジタルギフトボックスは子育て世帯が本当に必要としているアイテムが多かった
デジタルギフトボックスではどのようなアイテムを選べるようにしたのですか?

デジタルギフトボックス「ヘルピーギフト」クーポン画面イメージ
小川さん:育児用品を購入できる店舗の利用券はもちろんのこと、通院で使えるタクシークーポンやECサイトで使えるデジタルコード、さらには日常的に使いやすい電子マネーを用意しました。子育て中の親御さんが心にゆとりを持てることで、お子さまを安心して育てられると考え、ヨガプログラムなど大人向けのサービスも取り入れています。地域独自のサービスとして市内の産院で実施されている産後ケアプログラムや、家事支援を行う民間事業者のサービスクーポンも用意しました。日進市は核家族が多く、里帰り出産が難しいケースが少なくありません。そうした家庭が産後を安心して過ごせるよう、民間事業のサービスをギフトにしたのです。自己負担となると心理的・経済的な負荷が大きいですが、ギフトであれば利用しやすくなり、支援事業の認知向上にもつながると考えています。
ギフティの導入に際して、他の事業者との比較検討はされたのでしょうか?
小川さん:今回の事業は、プロポーザル審査を経て導入事業者を決定しています。複数の事業者から提案を受けましたが、ギフティのプロポーザルに強く惹かれるものがありました。ギフティのデジタルギフトボックスは子育て世代向けのラインナップが充実していて、本当に使いたいと思ってもらえそうなアイテムが数多くありましたし、産後ケアや家事支援など地域独自のサービスを選択肢に含められる柔軟性も魅力的に映りました。 また市の公式子育てアプリ「Nぴよ」と連携できる仕組みであることも、採択の理由のひとつです。
公式アプリと連携させることで、正しい育児・健康情報を周知
アプリ「Nぴよ」と連携したかった理由を教えてください。
小川さん:「Nぴよ」では、子育てに関した信頼できる情報を発信しています。育児中の情報収集はインターネットに依存しがちで、根拠のない情報に惑わされるケースがあります。そのため「アプリを見れば必要な情報が揃っている」と思われる状態を目指しています。また、マイナンバー連携により、市が保有する予防接種履歴の取得やアンケート回答が電子申請でできるなど、子育て家庭に合わせた機能を備えています。そこで、利用者をさらに増やすために、デジタルギフトボックスの交付をアプリ経由で行うことにしたのです。これにより、利用者数が増え、結果として多くの妊産婦や子育て家庭が必要な情報にアクセスできるようになりました。
また、転勤などに伴い転入された方は地域とのつながりが薄く、横のつながりを築きづらい傾向にあります。行政としては、こうした方々と「Nぴよ」アプリを通じてつながりを持ち、地域の情報を届けることが重要だと考えています。「継続的な接点創出」という観点でも、アプリ連携の可否は大事なポイントでした。
「Nぴよ」と「ヘルピーギフト」はどのように連携しているのでしょうか?ギフトの申請方法と合わせて教えてください。

青山さん:現金もしくはギフトの申請を「Nぴよ」を通じて行っていただいています。ヘルピーギフトは2回に分けて渡しており、「1回目ヘルピーギフト」は親子健康手帳(母子健康手帳)を交付した翌月末頃、「2回目ヘルピーギフト」は新生児訪問をした翌月末頃に、「Nぴよ」の「お知らせ(あなた)」へ申請の案内が通知されます。案内に沿って「Nぴよ」の専用ページから申請を行うと、申請をした翌月末頃に「Nぴよ」の「お知らせ(あなた)」で、ギフトの付与もしくは現金振込の選択ができ、給付を受け取れます。
対象者が現金振込とデジタルギフトボックスの好きな方を選べるとのことですが、どちらを選択する人が多いのでしょうか?

物理カードでの給付にも対応。住民のニーズに応じた方法を複数用意している
小川さん:2025年4月末時点で、全体の6・7割がデジタルギフトボックスを選択しています。ギフティに充実したラインナップを選定していただいたおかげで、多くの利用者がデジタルギフトボックスを選択してくれました。ギフトポイントの交換先では、電子マネーを選ぶ方が半数以上を占めています。毎日の生活で日常的に使える利便性の高さが、多くの方に支持されているのではないでしょうか。また、振込手続きがない分、現金振込に比べて給付までの期間が短いこともデジタルギフトボックスが選ばれている理由の一つだと考えています。 現金を選択した方のなかには、本当に一部ですが、コードの読み取りがうまくできないため現金給付を希望された方もいます。
現金給付とデジタルギフトを併用し、職員の事務負担も軽減。本来注力すべき業務に集中できる環境に
デジタルギフトボックスを選択できるようにしたことで、市の負担は軽くなりましたか?

青山さん:以前現金給付をしていた際は、申請書類のチェック、口座情報の確認、不備対応などの事務的な負担が非常に大きかったです。郵送のため受取がうまくいかず、再送に応じることもしばしばあり、職員の時間の多くを要していました。
小川さん:デジタルギフトの使用により、そうした負担が軽くなり、本来の業務に時間を捻出できるようになりました。デジタルギフトボックスは審査が終われば自動で給付されるので、給付後の問い合わせ対応がほとんどありません。さらに今年度からは現金給付も事業者側で口座情報の収集から不備があった場合、その対応までしてくれているため、職員は実際に振込を行うプロセスだけで業務が完了するのです。
デジタルギフトを利用することで、他にメリットはありましたか?
小川さん:日進市は名古屋市と豊田市という大きな自治体の間にあるベッドタウンで、転勤などにより住居を変えられる方が少なくありません。転入も転出もとても多い地域なんです。そのため、住民からの届け出があったらできるだけスムーズに支援を届けなければ、支援からこぼれ落ちてしまう人が出てしまいます。そうした点で、申請から給付までの期間が現金よりも短いデジタルギフトは便利と言えます。
ギフトを受け取る市民の方の声を聞くことはありますか?
小川さん:まだ始まったばかりの制度なので集まっている声は少ないのですが、家庭を訪問している保健師によると「たくさんのラインナップのなかから商品を選べるのがいい」という感想を聞けたそうです。
市民の安心とサービス向上を目指し、長期契約で制度を安定運用。年度の狭間もカバー
2025年度からは3年契約でギフティのデジタルギフトボックスを導入していただくことになりました。長期契約を決定した理由を教えてください。
小川さん:長期契約をすることで、見えてきた課題をブラッシュアップしながら運用できると思ったからです。ゼロから何度も契約をしなおすよりも、長期間腰を据えて取り組んだ方が市民サービスの向上につながると考えました。また、年度ごとにルールを変えていると、狭間の時期に妊娠・出産をされた方への支援が遅れてしまうことを危惧しました。市民の方に安心して制度を使っていただくためにも、長期的な運用をする方が良いと考えたのです。
転出や転入が多い自治体でも、安心して支援を受けられる体制づくりにつながっているんですね。今後、日進市の他の部署でもデジタルギフトの展開も検討されているのでしょうか?

小川さん:健康課からギフティのサービスの内容が伝わり、物価高騰対策の給付金事業にもデジタルギフトボックスを採用することになりました。現金は貯蓄に回る傾向がありますが、ギフト形式であれば目的に沿った支出に使われやすいという利点があります。部署間で情報共有しながら、今後も他施策への展開を図っていきたいです。