出産・子育て世代の支援にデジタルギフトを活用。デジタル化で事務作業の負担を軽減し、本来の業務に集中できる環境を整える
北海道石狩市(以下、同市)では、出産・子育て世代を支援するための「出産・子育て応援交付金事業」を2023年4月より開始。妊娠届提出時・出生届出時に、それぞれ5万円相当のギフトを給付するという内容です。
この事業の実施にあたり同市では、現金や商品券ではなく、「giftee Box」を石狩市のオリジナル仕様にカスタマイズしたデジタルギフト「いしかりっ子の未来応援ギフト」を作り、「出産応援ギフト」、「子育て応援ギフト」として、各5万円分のデジタルギフトを交付する方法を採用しました。
今回、デジタルギフトを採択したのはどのような理由があったのでしょうか。同市の総務部 行政改革・DX推進課の菅原太樹さんに、お話をうかがいました。
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市民と行政、双方の負担を軽減した支援事業を目指す
まず、今回の支援事業の概要について教えてください。
石狩市総務部 行政改革・DX推進課 菅原太樹さん
「出産・子育て応援交付金事業」は出産から子育てまでを一貫して支援する事業で、経済的支援と人による支援の2本柱になっています。「経済的支援」は、2022年4月1日以降に妊娠届・出生届を提出した方に、それぞれのタイミングで各5万円相当のギフトを給付するというもので、具体的な実施方法は国から各市区町村に任されています。今回、石狩市では「いしかりっ子の未来応援ギフト」としてデジタルギフトを利用しましたが、現金など他の手段で給付する自治体もたくさんあります。
一方の「人による支援」は「伴走型相談支援」といって、妊娠中や出産前後、子育て中の悩みや疑問について、保健師や助産師などの専門職の方に相談できる仕組みです。これによって、安心して出産・子育てができる環境を整えるのが目的です。
通常、“経済的支援”というと、現金や商品券などの給付をイメージされる方も多いと思います。なぜ石狩市では、デジタルギフトを給付することになったのでしょうか。
実は頻繁に経済的な支援は行われていて、例えばコロナ禍にも、給付対象が市内住民全員の支援、あるいは非課税世帯のみが対象となる支援などがありました。 こうした支援は、経済的な意義は確かにある一方で、給付を実施するときに役所と市民双方に負担がかかるという課題もあるのです。
負担というのは、事務作業が多いということでしょうか?
その通りです。まず市民の方には、申請書に必要事項を記入いただき、さらに必要書類として預金通帳や本人確認書類のコピーを添付するという手間がかかります。一方、市役所では送られてきた書類を1件ずつ、すべての項目について審査します。そして問題がなければ銀行振込用のデータをつくって振込手続きを進めるという流れです。 最近は、オンライン申請や公金受取口座を使って効率化を図る例もありますが、それでもこの作業に膨大な時間がかかります。 しかも今回の支援事業は、新型コロナウイルス感染症対策給付金のような一時的なものではなく、国の方針が変わらない限り続くものです。そこで今回の事業を所管する部署から「デジタルを活用することで、双方の負担が少ない新しいスキームで事業を実施できないか」という相談があったのです。
支援事業をデジタル化することについて、庁内の反応はいかがでしたか?
行政の事業には公平性が求められるので、デジタル化に対応できない方がいたらどうするかという懸念は確かにありました。しかし今回の給付対象は出産・子育て世代ということで、20~40代の方がほとんどです。そのため、世代的にもそのような問題は少ないのではないかという判断になりました。
ニーズに合致したギフティのサービスメニュー
では今回、支援事業のデジタル化にあたって、ギフティを選ばれた理由を教えてください
私が所属する行政改革・DX推進課では、デジタル化による事業の効率化を進めています。各種支援給付もその対象で、以前より現金給付からデジタルへの転換を考えており、デジタルギフトのサービスについてリサーチしていたので、ギフティさんのサービス自体は知っていました。
ただ全世代を対象とした給付の場合、高齢者の方もいるのでデジタルでの展開は難しく、なかなか機会がなかったのですが、今回は20~40代が主な対象となるので、これはうまく取り組めそうだと思いました。
事業者採択にあたってはプロポーザル審査会を実施しました。国の「出産・子育て応援交付金事業」は2022年の12月に概要が発表されたのですが、ギフティさんはかなり早い段階でこの事業に対するサービスメニューを展開されており、そのメニューが私たちが進めたいことと合致していたので、ギフティさんを事業者として採択しました。
今回の支援事業を理解していたという点は、大切なポイントだったのでしょうか。
そうですね。特に今回、事業の概要が発表されてから実施までの期間が約4カ月しかなく、事業内容や行政の仕組みについてデジタルギフトの会社さんに理解してもらうところから始めていたのでは、スケジュール的に厳しいと感じていました。その点ギフティさんは、すでに事業を理解されたうえでサービスメニューを展開されていたので、安心感がありました。
また、ギフトの種類や数が豊富なこと、受け取る際のUI/UXも非常にわかりやすい点も大きなポイントでした。
デジタルの利便性とリアルでのコミュニケーションの温かみを両立
支援事業は具体的にどのように実施されたのでしょう?
対象者に配付されたギフトカード
妊娠された方には、市役所に妊娠届を提出していただきますが、その際「伴走型相談支援」の一環として、助産師や保健師との面談があります。その際に渡されるカード内の二次元コードをスマートフォン等で読み取り、「同意してギフトを受け取る」ボタンを押下、アンケートに回答すると、その場で「いしかりっ子の未来応援ギフト」の5万円分のギフトポイントを受け取れるという仕組みです。 出生時には出生届を出していただきますが、そのときも同じ流れでギフトを受け取れます。
このスキームだと、市役所の担当者と支援対象者がリアルで対面する場が必ずあるので、書面による本人確認が不要で、しかも確実にギフトを渡せます。
ちなみになぜ「いしかりっ子の未来応援ギフト」の受け取りURLが記載されたメール送付ではなく、カード支給という方法を取られたのでしょう? メール送付であれば、カード作成のコストも不要だったと思います。
「カードによる支給」はギフティさんのアイディアですが、これが「専門職には、煩雑な事務作業ではなく、面談に集中してもらいたい」という我々の考えと合致していたからです。
メール送付の場合、メールアドレスの確認や、そのアドレスが本人のものか精査する必要がありますし、誤送信のリスクもあります。しかし面談の場に来ているのは本人ですから、そこでカードを1枚渡せば本人確認は完了します。助産師や保健師の負担はほとんどなく、運用もシンプルです。その分で生まれた時間で、助産師、保健師は、しっかりと相談者の話を聞くことができます。
利用者の日常生活に役立つギフトを
今回はオリジナルの「giftee Box」である「いしかりっ子の未来応援ギフト」を用意されました。ギフトの内容はどのようなものでしょうか。
「出産・子育てを応援する」という趣旨に合致するものという観点で、約900点のデジタルギフトを選べるようにしました。もっとも、厳密に出産・子育てに限ってしまうと、利用できる場所や購入できるものが少なくなってしまうので、出産・子育て世代の生活を応援しようという観点から、日常生活で利用できるギフトも幅広く選んでいます。
内容の選定は、石狩市様でされたのですか?
いえ、ギフティさんはギフトの種類が非常に豊富で、自分たちではとても選びきれなくて(笑)。ギフティさんに選定の趣旨をお伝えして、ギフト内容をご提案いただきました。結果、ベビー用品や育児関連用品はもちろんですが、日常生活で利用できる電子マネーや産後の身体に優しいグルメのギフトなども豊富に揃っていて、まさに利用者のニーズに合っているものを選んでいただけたと思います。実際にギフト受け取り状況を見ていると、高価なものをドンと買うよりも、身近なところで使用されている方が多いようで、さまざまな種類のギフトを選べるようにしておいたのは良かったと思います。
ギフティのスピード感によって短期間で支援を実現できた
ギフトを受け取られた方々の反応はいかがですか?
ギフトの受け取り状況はオンラインのダッシュボードで確認できるのですが、順調に使われているようで良かったです。また、今回は国の事業なので、さまざまな調査や報告などの提出も想定されます。必要な情報がデータですぐに出せるのも便利です。
実際に取り組みを進めてみて、ギフティの対応についてどう感じられたか教えてください。
相談に対するレスポンスが早いことに驚きました。今回はわずか4カ月の間で企画立案から実施まで進めなければならなかったのですが、それを実現できたのは、ギフティさんが事業を次へ次へとリードしながら、スピード感を持って進めてくれたおかげだと思います。
また、提案のパターンも豊富で本当に助かりました。例えば二次元バーコードの渡し方についても、実は数パターンの提案があって、そのなかのひとつが「面談時にカードを渡す」という方法でした。実務上の負担が少なく最もシンプルな仕組みということで、この方法を選択したという経緯があったのですが、これも行政の現場と事業内容をしっかり理解されていたからこそだと思います。
ちなみにカードのデザインも、ギフティさんに提案いただいたものをもとに、保健師が中心になって決定しました。石狩市の公認キャラクターである「さけ太郎」と「さけ子」も入っていて、とてもかわいいと好評です(笑)。
また、妊婦さんのなかにはスマートフォンを持っていない方もいたのですが、その場合には紙タイプのギフトを渡せるようにするなど、時間のないなかでもきめ細かな対応をしていただけて非常にありがたかったです。
周囲の方の反応はいかがでしょう?
こうした支援事業は役所の負担が大きくなるので、関連部署の職員は大変な思いをしていることが多いのですが、デジタルギフトであれば、そのような負担が軽減されることがわかりました。しかも今回は書類審査の必要もなく、カード1枚を渡すだけでスムーズに完結します。そのような点で、庁内からの反応は非常に良いですね。市民からも、煩雑な手続きをしなくても、面談の際に給付を受け取ることができるので好評と聞いています。私たちが課題に感じていたことは、しっかり解決できています。
給付事業以外にもさまざまな場面でギフティを活用したい
ありがとうございます。では今後、ギフティを活用したいシーンなどがあれば、教えてください。
今回の事業は国の事業でしたが、市が独自で実施している支援もいろいろあります。そこで、対象者がデジタルと親和性が高いような場合には、デジタルギフトを取り入れていきたいですね。
あと、ギフティさんの「e街プラットフォーム」にも注目しています。石狩市内で使えるデジタルギフトの「e街ギフト」や「旅先納税」にも取り組んでみたいです。
私の所属している行政改革・DX推進課は、市役所全体のDXを横串で進めていく部署です。今回の事例を応用できる部門はたくさんあると思うので、さまざまな場面でデジタルギフトを活用して、業務を効率化しながら、市民の方や石狩市を訪れた方に喜んでもらえる施策を進めていきたいと思っています。