ギフトではじめる、非接触時代のBtoBコミュニケーション
昨今の“非接触”の流れからくる就業環境の変化は、リモートワークの動きを加速化させています。その影響はさまざまな切り口で語れるが、こと企業の営業活動に関しては多分に言えるところでしょう。徐々にマスクなどの規制の緩和がされているものの、国内の労働事業や政策を調査する独立行政法人 労働政策研究・研修機構の調査によると、一定数のオンラインによる就業状況は続く見通しであり、今後もオンラインオフラインの働き方が一定の割合で存在していく考えが妥当そうです。(※1)そのため、企業は顧客とのコミュニケーションのあり方を見直す必要があり、特に対面営業などを重ね中長期的な関係を顧客と構築していくBtoB領域の企業は新たな方法を模索する必要が出てきています。
その中で、BtoB企業であるHENNGE株式会社も例外ではなく、コロナ禍の影響で営業活動の大きな転換が強いられました。これまで、対面での丁寧な営業を繰り返すことで信頼を構築していたが、従来の方法ができなくなってしまいました。その打開策として、マーケティング・オートメーションツールでデジタルギフトを活用し、BtoBマーケティングにおいて勝機を見出しました。そこで“非接触”の時代におけるBtoBマーケティングの取り組みとして、ギフトを用いた関係構築に挑戦するHENNGE株式会社Corporate Communication Division Marketing Section Mktg Opsの高村祐司さんに話をうかがいました。
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見込み顧客との縁を生み出すギフト
HENNGE株式会社Corporate Communication Division Marketing Section Mktg Ops高村祐司さん
不正ログイン対策、メールの情報漏洩対策などを一元的にクラウドサービス上で提供するSaaS認証基盤やクラウドメールサービスを展開しているHENNGE株式会社(以下、同社)。主な顧客である社員250名以上の企業規模を持つ情報システム部門に対して、主力サービス『HENNGE One』を含む3つの製品を提供しています。マーケティングの組織は、会社全体やサービスを横断したブランドマーケティングを担うCorporate Communication Divisionに紐づく形で、各サービスのマーケティングチームがあります。Mktg Opsの高村祐司さんはHENNGE Oneの顧客獲得や売り上げ向上を担うチームに所属しています。
高村さん: 「弊社の顧客の特徴として提案から導入までの時間が2~3年ほどかかります。その背景として情報システム部門の方が良いと思ってくださっていても、決済権がある部署を説得するのに時間がかかってしまうこともあれば、そもそもクラウドサービスの重要性をお話しすることからお手伝いしなければならないこともあります」
そこで高村さんは、長期に渡る顧客との関係をどのように構築してサービスを導入してもらうか、というミッションに取り組んでいます。
高村さん: 「提案含め、関係を築いていくことは営業の力の見せ所なわけですが、それを(マーケティングとして)サポートする方法がもっとあってもいいのかなと考えています。私たちが取り組んでいるのは、きちんと売上につながるマーケティング。ただアイデアを出しっぱなしにするのではなく、営業を芯から支えられるものでなくてはなりません」
そのため、ディビジョン全体や各セクションで、駅の大型広告やテレビCM、Webメディアとタイアップしたインタビュー記事など、積極的にコンテンツを作り、多様なチャネルで発信し続けています。その中で、特に力を入れているのがイベントです。他社が開催するさまざまなイベントに登壇しながら、2019年ごろまでは最先端の技術やサービスを紹介する「HENNGE NOW!」というカンファレンスを自社開催し、多くのリード(見込み顧客)との接点を生み出していました。しかし、新型コロナの拡大でリアルな空間に人を集めることが難しくなり、営業方法の転換を迫られました。
高村さん: 「打ち出した方策は、映像を使いオンラインでイベントを開催することでした。事前にご登録をいただいた方に、好きな時間に好きな場所でセミナー映像を観ていただくことにしたのです。けれど、当初の集客は思わしくなく、1万人という集客目標を達成できそうにありませんでした」
そこで導入をしたのが、インセンティブとしてのギフトです。イベントに参加申込をしてくれた人に対し、Amazonギフト券 1,000円分を贈るキャンペーンを実施しました。
高村さん: 「結果は歴然でギフトをつけ場合とそうではない場合の集客数を比較したところ7倍の申し込みがありました」
2021年に開催した同イベントでは、最終的に1万1千人の申し込みがあり、そのうちの1万人が公開した動画をきちんと視聴していました。ギフト欲しさに無関係・無関心な人が登録をしていたケースは少なく、その多くが営業先候補として挙がることになり、ここで高村さんは単純なインセンティブとしてではないギフトの魅力を感じました。
使えるデータがすぐに集まる。担当者へのアプローチが最短ルートに
中長期的な関係を構築するためには、顧客に適切な情報を適切なタイミングで送り続けることが重要です。その判断材料として、企業は顧客の状況を把握するためのデータに注目するが、同社の場合、2~3年といった期間で顧客とコミュニケーションを取り続けるため、さまざまなデータを取得し、Adobe Marketo Engage(以下、マルケト)とセールスフォースというマーケティング・オートメーションツールとCRMを連携させ、マーケティングと営業の両部署が保有するデータを管理。関係部署に連携して顧客の分析を進めています。
同社のマーケティングプラットフォームとなっているマルケトは、2021年、giftee for Businessと連携してシステム上でデジタルギフトの発行が可能となり、例えば、アンケートの回答などシステム上で設定した成果地点を達成した顧客に対して、メールにて自動でギフトを送付できるようになりました。イベントの集客でギフトを通じたコミュニケーションに可能性を見出した同社は、マルケトとデジタルギフトを新規顧客開拓に転用しました。
高村さん: 「簡単なアンケートにお答えいただいた方に、インセンティブとしてギフトをお渡ししました。このときは利用の自由度を高めるためにgiftee for Businessの『えらべるPay』を導入。無関係な部署の方や一社から多数のご応募があった場合はお断りしましたが、基本的にはお答えいただいた方全員に1,000円分のギフトを贈りました」
アンケート結果はすぐにデータ化されたため、営業チームはセールスフォース上のリストから確度の高い営業先を瞬時に見極め、セールスへとつなげることができました。
高村さん: 「アンケート結果を一覧で見られただけでなく、案内のメールを開封したか、デジタルギフトを受け取ったかどうかも知ることができました。サービスへの理解度やお困りごとの内容をある程度把握してからアプローチができるため、効率のいい営業ができます。また過去の施策との関係性をレポート化できるという点も素晴らしいです。この仕組みを使えば、使えるデータがすぐに集まります」
マーケティングセクションの目標の一つは『ノンリードをリードへと変えていくこと』。そのための第一歩が担当者の名前を知ることです。
高村さん: 「新たに営業先を開拓したいときに、担当者の氏名とメールアドレスを知っていれば話を聞いてもらえるまでが早い。それすら知らないと代表電話を窓口とするしかないわけですが、それでは担当者に繋がらないことが多い。ギフトを活用したコミュニケーションで営業開始までのステップが大幅に短縮されました」
さらにアンケート回答の収集からギフト送付までがワンストップでできる仕組みは、送付自体の手間や個人情報漏洩のリスクを減らすことにも一役買っています。
高村さん: 「これまでは営業が集めてきた名刺を私たちが手入力でデータ化し、その情報を元に送付する運用がかなり大変だったのですがその労力から解放され、なおかつスピード感も出た。これはありがたかったです」
ちなみにどんなに整理されたデータであっても、使えるものにするためには年に1回のデータクレンジングが欠かせないといいます。
高村さん: 「データ取得時には正しい情報であっても、担当者の離職や企業の吸収合併など絶えず環境は変化します。定期的にそれを精査しておかないと、データは使い勝手の悪いものになってしまいます」
売上につながるマーケティングをギフトコミュニケーションで実現したい
継続した変化と挑戦のメッセージを込めて、社名は「変化=henka」に「チャレンジ=challenge」をかけ合わせて作られました
悪意のある捉え方をする人にとっては、ギフトを活用したコミュニケーションは「撒き餌」とみられることがある。社内で反対の声があがることはなかったのでしょうか。
高村さん: 「それはありませんでした。社名のHENNGEには、変化とチャレンジの意味が込められています。私たちはどんどん新しいことに挑戦することに貪欲です。常にアーリーアダプターでいよう、青い実を齧る役割を担おうと考えています。新しいことにどんどん挑戦して、早く失敗することを良しとしています。だからギフトやマルケトの導入も、結果としては大成功だったわけですが、失敗したとしても怒られることはありません」
加えて、撒き餌になってしまう原因としては、企業側の効率性を重要視して、受け取り手の体験が設計されていないことが多いです。そのため、そもそもの目的だった顧客との関係構築が達成できなくなってしまいます。受け取り手の体験設計まで考慮し、欲しかったものを適切なタイミングで受け取った顧客は、ブランドやサービスのロイヤリティを高め、継続的なコミュニケーションをとることが可能となります。そのためには、日々送る情報と同様に適切なギフトを適切なタイミングで贈ることが重要です。同社の場合、マルケトというマーケティング・オートメーションツールが持つ顧客の状況を理解できる強みと、デジタルギフトの持つ即時性の強みがかけ合わさり、顧客に適切な体験が作られていることが大きなポイントと言えます。
高村さん: 「大事にしているのは「PDCA」ではなく「OODA(ウーダ)」で、Observe(観察)、Orient(状況判断)、Decide(決定)、Act(行動)で、評価よりもまずはやってみようという考え方です。これが周知されているので、新しい施策はすんなりと受け入れてもらえました」
手触り感のあるギフトのおもしろさ
過去を振り返ってみると、そもそもギフトというもの自体を好む社風でした。
高村さん: 「そういえば、イベントにお申し込みいただいた方に『宅飲みキット』をプレゼントしたことがありました。コロナ禍に突入してまもないころのイベントで、どこにも出かけられないなかで少しでも楽しみを提供できないかと考え、ドリンクとおつまみなどをオリジナルの包装紙で包んで贈りました。SNS等では反響があり、面白がっていただくことができました。手触り感のある品物を贈れることは楽しかったですね。反面、すべて自分たちで用意をすることは大変でもありました。今後はこのような手触り感のあるギフトの展開ももっと考えていきたいです」
コロナ禍の影響で、企業と顧客の関係をいかに構築するかという課題は、どの企業にも共通していえることではあるが、同社のようなBtoBマーケティングに取り組む企業はどんなことが言えるのでしょうか。
高村さん: 「弊社はデジタルを推進しているIT企業ではあるのですが、手触り感のあるものを贈ってみたいという矛盾は感じています。けれどコロナ禍を通じて、私たちはますますリアルで人と会うことの楽しさや、実際に手で触れることの面白さを知りました。これからはオンラインオフラインが混ざり合うハイブリッドなコミュニケーションが求められてくる時代になっていくはずです。だからギフトもよりハイブリッドな方向に展開できるように考えていきたいですね。意外に思われるかもしれないのですが、今後は紙のDMを送ることも考えています。メールで送られてくるものと、実体のあるもので送られてくるものではものの意味や重さ、質が違います」
新しい機会創出のためには、ギフトを通じて人の心を動かす施策が必要です。そしてそれは、リアルで会えない、会いにくい時代にこそ効力を発揮します。デジタルギフトは、会えない、見えない未来の顧客との縁を繋ぐことができる貴重な手段となりそうです。
※1 独立行政法人 労働政策研究・研修機構プレスリリースhttps://www.jil.go.jp/press/documents/20220518b.pdf