「えらべるPay」を付与し、IDアプリを普及へ 焼津市が実践したデジタル化促進と消費活性化策とは
静岡県焼津市は2023年10〜11月の期間中、「デジタルLifeサポート事業」を実施。これは、xID(クロスアイディ)アプリにアカウントを登録の上、アプリ内に届いたデジタル通知から電子申請すると、先着2万名に3,000円分のキャッシュレスポイントが付与される、というものです。
焼津市では、各種公共サービスのデジタル化を推進しており、市民により頻度高く利用していただきたいと考えていました。そこで、デジタルサービスの利用促進のため、本キャンペーンを実施したところ、1万5,000人超の市民に参加いただけたそうです。
行政サービスをデジタル化し、市民生活の質の向上を目指す⸺これは、焼津市だけでなく、他の自治体にとっても共通の課題でしょう。そこで、今回の施策をどのように実行し、どんな成果が得られたのか、焼津市 行政経営部 DX推進課の鈴木寿彦さんにお話をうかがいました。
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消費の下支えとデジタル化の促進を目的にキャンペーンを実施
「デジタルLifeサポート事業」の施策概要と目的を教えてください。
静岡県焼津市 行政経営部 DX推進課 DX推進担当 係長の鈴木寿彦さん。今回の施策の中心となった「電子申請サービス」の推進以外にも、行政業務にノーコードツールを取り入れるなど、役所内の業務効率化に取り組んでいる
「デジタルLifeサポート事業」は、焼津市民の皆さんにご自身のマイナンバーカードを用いて「xIDアプリ(※)」にアカウント登録いただき、電子申請いただくと、先着2万名にキャッシュレスポイント3,000円分を付与する、という施策です。
※マイナンバーカードと連携することで、より手軽に本人確認、本人認証、電子署名ができるデジタルIDアプリ。
読み方は「クロスアイディアプリ」
焼津市から市民へのキャッシュレスポイント付与の流れ(イメージ)
施策の目的としては2つあります。1つは、昨今の物価高騰に対し、キャッシュレスポイントを付与することで市民の方々の消費を下支えしたかったのです。2つ目は、より多くの市民にxIDアプリをダウンロードいただき、デジタル化された行政サービスの利便性を知ってもらいたかったのです。
今回、ギフティ支援のもと、いわゆる“インセンティブを付与する施策”を実施されたわけですが、その背景を教えてください。
まず、この施策を通じて目指したかったこととして、デジタル通知に本格的に取り組む契機にしたかった、ということがありました。
xIDアプリ上でのデジタル通知は、行政側からの一括送信はもちろん、対象者を指定した個別送信も可能です。このデジタル通知の利用を推進することで、より質の高い市民サービスを実現したかったのです。
デジタル通知の利用拡大には、市民の方々にまずはxIDアプリをダウンロードいただく必要がある一方、xIDアプリはまだ導入検討フェーズで、当時のダウンロード数は実証実験に参加していただいた数名のみでした。
なるほど。つまり、xIDアプリのダウンロード促進が目下の課題だったのですね。ではなぜ、今回のようなインセンティブ付与型の施策にされたのでしょうか。
理由は、我々が「このアプリをダウンロードしてください」と単に呼びかけても、実際にデジタル通知を体験していない状況では、市民からの反応は限定的になってしまう、と考えたからです。
xIDアプリは市民の方々にとって、さまざまなメリットがあります。例えば、xIDアプリと連携した電子申請サービスを利用することで、市民の方々は24時間どこからでも行政手続きが可能になります。さらに、xIDアプリではマイナンバーカードを用いて一度アカウント登録すると、以後、基本4情報(氏名・住所・性別・生年月日)は申請フォームに自動入力され、入力する手間が省けるのです。
ただ、このメリットを伝えるだけでは、ダウンロードしていただくのは困難。さらに「物価高騰が続く中、市民生活を支えたい」との考えから、インセンティブを提供する今回の施策にしたのです。
市民のニーズに合致した「えらべるPay」
では、施策を進めるにあたって、ギフティを選ばれた決め手を教えてください。
今回は焼津市の公募型プロポーザルに参加していただいた企業の中から、ギフティさんに依頼することになったわけですが、決め手は「ギフトの選択肢の幅広さ」と「窓口業務やPR活動も支援いただけた点」です。
まず、ギフトについてですが、我々が選んだのは「えらべるPay」です。理由は、施策の目的のひとつが「市民の消費の下支え」なので、利便性が高く、かつ市民の皆さんに真に「貰って良かった」と思ってもらえるものにしたかったからです。その観点から、多くのキャッシュレス決済サービスがそろっている「えらべるPay」は、まさに市民のニーズに合致するものだと思いました。
そして実際に、利用した市民の皆さんのライフスタイルに合わせて、ほぼ全ての決済サービスが利用される結果になりました。
本キャンペーンの特設サイトの一部。「えらべるPay」は、ギフティが提供する約15種類のキャッシュレス決済サービスの中から、ギフトを受け取った人が欲しいサービスと交換することができる商品。施策のコンセプトなどに合わせてラインナップをカスタマイズすることもできる
2つ目の決め手である「窓口業務やPR活動の支援」ですが、やはりデジタルに不慣れな方のサポートのためにリアルな窓口での支援が必要でしたし、周知のためのPR施策も重要な要素でした。その点、ギフティさんはそうした領域において豊富な実務経験をお持ちとのことで、魅力的に感じました。
窓口業務はどのような体制で実施されたのですか?
申請支援窓口は、電話窓口のほか、市役所や市内9カ所の公民館に設置。そして、基本は、ギフティさんを介して、株式会社ディーエムエスさんに実際の対応業務をお願いしました。つまり、焼津市からするとディーエムエスさんは“再委託”という形になるのですが、ギフティさんが間に入ってくださったお陰で、円滑に運営できたと思っています。
それがよく分かる例をお伝えします。当初は正午から13時までは窓口の休憩時間と決めていたのですが、市民の方から「昼間の時間も対応してほしい」との要望が多く寄せられたのです。
そこで、当初は私も含めた職員でその時間は対応しようと考えたのですが、ギフティさんから「窓口の休憩時間をずらすことで対応できる」と提案いただいたのです。これはほんの一例ですが、このような柔軟な対応をしていただけたことで、窓口業務は滞りなく進めることができました。
PR活動に関するギフティからの支援はいかがでしたでしょうか。
キャンペーンサイトを開設していただいたり、チラシやポスターといった販促物を制作していただきました。
ギフティが制作したチラシ。市役所や公⺠館で自由に持ち帰れるようにしたほか、保育園や幼稚園、一部の店舗などにも配られた
また、今回の施策を広く市民の皆さんに知ってもらうために、リスティングやSNS、LINEなどのデジタルによる広告、さらにはあまりインターネットを利用されない方に向けて、新聞折り込みチラシやポスティングなど、アナログによる広告も含めて、幅広く提案いただきました。
さらに、当初は新聞折り込みチラシを1回程度行うことを想定していたのですが、「出稿回数を複数回に分けた方が良い」など、手段についても細かく提案いただけたのです。その結果、電子申請者の波は途切れることなく、最終的に1万5,000人以上の方に申請していただくことができました。
ギフティさんからのご支援を総評すると、窓口業務やPR業務以外でも、こちらからの相談には素早く、かつ的確にレスポンスをいただきました。こちらの希望も即座にご理解いただき、対応が難しい場合は代案を提案していただくなど、大変助かりました。
xIDアプリの登録者が人口の1割超に
電子申請者1万5,000人超。この数字をどのように評価していますか?
施策実施前は、申請者の数に正直不安を感じていましたが、蓋を開けてみたら、2か月間という短い実施期間で1万5,000人以上もの方に申請いただけて、驚いています。
また、期間中大きなトラブルもなく、xIDアプリの登録者は人口の1割を超えました。当初の目的である「市民の生活支援」と「デジタルサービスの活用拡大」を達成できたと考えられ、非常に満足しています。
ちなみに、今回のようなデジタル化推進施策を実行するにあたり、組織内での調整は難しい面もあったかと思いますが、いかがでしたか?
おっしゃる通り、なかなか大変でした(笑)。というのも、公共サービスは、本当に老若男女さまざまな方が利用されます。つまり、必ずしもデジタル環境に慣れた方ばかりではないのです。
そうした背景から、今回の施策を提案した際も、市役所内部からも意見は挙がりました。例えば、焼津市では以前に、市のLINE公式アカウントから市内の商店で利用できるクーポンを配布したことがあることから、「新しいことを始めなくても、既存のLINEアカウントからクーポンを配れば良いのでは」といった指摘です。その他にも「高齢者のことを考えたら、紙のクーポンを渡した方が消費を下支えできる」といった意見が挙がりました。
それでも、電子申請やデジタル通知の利便性を市民の皆さんに直に体験していただきたい、という想いから理解を得るための丁寧な説明を続けました。例えば、近年市役所に導入され、徐々に浸透してきた「LoGoフォーム(※)」の成功事例など。そして、なんとか施策を実施する段階まで漕ぎ着けることができました。
※電子申請や申し込み予約、アンケートなどのフォームを作成・集計し、一元管理できる自治体専用システム
ありがとうございます。では最後に、今後の展望とその中でギフティに期待することを教えてください。
前述の通り、今回の施策で人口の約1割の方にxIDアプリを登録していただけました。これを踏まえ、DXをさらに推進していくためには、xIDアプリの他の機能の利便性も実感いただけるよう、継続的に施策を行っていく必要があります。
例えば、デジタル通知の既読率を高めるためには内容のブラッシュアップが欠かせません。しかし、内容の改善だけでは既読率がなかなか上がらないことも想定されます。
そこで、今度は「通知を10通開封したら、ポイントを付与する」といった施策が有効かもしれません。そういった点で、今後もギフティさんとご一緒できる機会は多々あると思っています。