マイナンバーカードの利活用促進を目的としたキャンペーンを実施。アプリやデジタルギフトを活用し、「デジタル完結」で行った施策の成果とは
長崎県庁では2023年、県民のマイナンバーカードの取得率を高めるために「U18マイナカード生活応援事業」を実施。申請時点でマイナンバーカードを保有している18歳以下の県民に1万円分のデジタルポイント(「ながさきU18マイナPay」)を配布し、子育て世帯の生活支援を兼ねたキャンペーンとして展開しました。 このキャンペーンを機に、多くの方に対してマイナンバーカードの取得と活用の促進を図り、18歳以下の県民のカード取得率を長崎県平均までに引き上げ、成功を収めた本キャンペーン。実際にマイナンバーカード交付申請手続きを行う市町にはできるだけ負荷をかけず、県民が平等性を感じられるようにするには、どのような工夫が必要だったのでしょう。 長崎県企画部デジタル戦略課課長の井手潤也さん、参事の村山健一さん、主任主事の日髙貴志さんにお話をうかがいました。
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マイナンバーカードの利活用促進と、子育て世帯の家計を支援するためのキャンペーンを実施
今回の施策の概要を教えてください。
写真左から、長崎県企画部デジタル戦略課 参事 村山健一さん、課長 井手潤也さん、主任主事 日髙貴志さん
井手さん:申請時点でマイナンバーカードを持つ18歳以下の県民の皆様を対象に、1万円分のデジタルポイントを付与するというキャンペーンを行いました。 18歳以下を対象としたのは、この年齢層もマイナンバーカードの取得率が低かったためです。マイナンバーカードは、行政サービスのデジタル化の基盤となるもの。利活用していただくために、まずは取得を推進する必要がありました。また、昨今の物価高騰等により、負担が増えている子育て世帯を支援する意味合いもありました。
重要な個人情報を守り抜き、かつ効果的にキャンペーンを展開できる事業者を選定
「U18マイナカード生活応援事業」は株式会社日本旅行が受託し、xID株式会社とギフティと連携を行って事業を推進しました。事業者選定はどのように行なったのでしょうか?
井手さん:事業者募集はプロポーザル形式で行いました。個人情報を前提とした安全・安心なシステムを確立できるか、全ての県民がポイントを利用できる工夫がなされているかなどを評価項目とし、事業者を決定しています。 というのも、長崎県は日本一離島が多いという特殊な地理環境を持っています。島嶼部は都市部に比べてキャッシュレス決済サービスの利用率が低かったり、そもそも店舗でキャッシュレス決済サービスを使用できなかったりといった課題があります。そのため、県全体を対象としたキャンペーンを展開するためには、キャッシュレス決済に対応していない店舗が多い地域でも使いやすいギフトを用意する必要があると考えていました。
日髙さん:今回の「U18マイナカード生活応援事業」の対象者は約21万人と、前例がないほど大きな規模感の事業でした。そのため、対象者の多くが一斉に申請したとしてもシステム障害が起きないことは重要でした。また、住所や氏名など非常に重要な情報を扱う施策のため、セキュリティ面でも安全に使えるという点も重視していました。
マークしていた数値はほぼ達成。思わぬ余波も生じたキャンペーンに
「U18マイナカード生活応援事業」によってマイナンバーカード取得率を上げるという目標は達成できましたか?
井手さん:おおよそはできたと考えています。長崎県全世代でのマイナンバーカード所有率は7割程度。18歳以下もそのくらいの数値までは持っていきたいと考え、18歳以下の人口の約7割の14.5万人を目標に掲げていました。結果として、18歳以下のマイナンバーカード所有率が県平均の7割程度まで上昇し、今回の事業に約12万人が参加していただいたことから、おおよそは達成できたと考えています。
村山さん:担当としては申請者数を大台に載せることができたので満足しています。今回のキャンペーンを通じ、18歳以下のカード所有者数が増えただけでなく、対象者の父母にあたるであろう30代・40代の方や、祖父母の世代の申請件数が同時期に増えていたので、18歳以下のご家族と一緒に申請された方がいると推測しています。
井手さん:キャンペーンによって、すでにカードを手にしていた親世代の方々が電子証明書を更新してくれたケースも少なくありませんでした。また、マークしていた数字ではありませんが、キャンペーンを始めて2・3か月目の11・12月はマイナンバーカード交付率の前月比伸び率が全国トップになりました。
キャンペーン参加者を増やすために取り組んだことはありますか?
井手さん:県民の方にキャンペーンをいかに知っていただくかは当初からの課題と感じていたため、広報には力を入れました。テレビCMや広報誌、SNSでの発信も行いました。
日髙さん:専用ウェブサイトの制作、県内機関でのチラシ配布やポスターの掲示も実施しました。広報対策は受託者からの提案だったのですが、こうしたご提案も含め、プロポーザル審査の結果となっています。
井手さん:広報以外ですと、わかりやすく使いやすいアプリをご用意できたことが要因として大きかったと思います。スマホ1台あれば、いつでもどこでも、ご自身の都合の良いタイミングで電子申請できる仕組みになっていたので、多くの方にご参加いただくことができました。
市町村に負担をかけず、迅速にポイントを配布できた
広報にあたっては、各市町村様のご協力もいただいたのでしょうか。
井手さん:「U18マイナカード生活応援事業」は県庁のキャンペーンなので、できるだけ市町の皆さんの手を煩わせないようにとは考えていましたが、広報誌に掲載いただくなど、広報面では非常に協力していただきました。
市町村とは協力体制を敷く必要があるとはいえ、ただでさえ多忙な役所の負担が増えないようにすることは大切だったのですね。
村山さん:そうですね。マイナンバーカード発行の際には役所の窓口での事務手続きが発生するので、どうしてもご負担をおかけしてしまう面はあります。しかし、すでにマイナンバーカードをお持ちの方については、申請者がオンラインで完結するため、窓口の負担は軽減できたのではないかと思います。ほかにも、専用のコールセンターや出張申請ブースを県内各所に設置し、申請方法がわからなくなったときなどに問い合わせてもらうよう告知を行ない、負担の軽減を図りました。
ライフスタイルにあわせてポイントを使えることが評判に。マイナンバーカードの取得率も大きく向上
「U18マイナカード生活応援事業」に対する、県民の皆様の反応はありましたか?
日髙さん:今回の事業では、ギフティさんの「giftee Box」を本事業用にカスタマイズした「ながさきU18マイナPay」1万円分を申請者に付与しました。各種キャッシュレス決済サービスや、大型ショッピングセンター、ECサイト、コンビニエンスストアなど、150以上のギフトブランド、900種類以上のラインナップの中から、金額内でお好きなものをお選びいただけます。
中には「150以上のブランドからギフトを選べるのがうれしい」という感想を聞くことができました。やはり長崎県は離島が多いので、ギフトサービスやキャッシュレス決済サービスは使えないものが少なくないのですが、「U18マイナカード生活応援事業」ではライフスタイルにあわせたギフトを受け取れたと喜んでもらうことができました。 また、1万円分のポイントは少しずついろいろなブランドに振り分けて使用することができたので、もらった分をきちんと生かせると好評でした。
3社が協力して事業に取り組み、キャンペーン成功を目指す
今回のキャンペーンを日本旅行およびxID、ギフティと一緒に取り組んでよかったと感じていることはありますか?
本事業の流れ
村山さん:丁寧なヒアリングを重ねていただき、県庁が実行したいことを着実に取り入れてくれた点をありがたく思っています。事業を始める前にざっくりと描いていた構想も、実際に進めてみると実現が難しいとわかることも多々あります。その中で3社が協力して、できること・できないことを判別し、カスタマイズが必要な部分も含め柔軟に対応してくれたので、結果として良いものが出来たと思っています。
日髙さん:県民の皆様の申請期間をできるだけ長く設けるために、予算可決から事業開始までタイトなスケジュールをお願いしてしまいましたが、迅速に対応していただけました。おかげさまで、県民の皆様がキャンペーンを知ってから、マイナンバーカードを取得し、電子申請をするまでのフォローを行なっていただく期間を長く取れたのではないでしょうか。出張申請ブースを離島に設置していただくなど、きめ細やかな対応をしていただいたことにも感謝しています。
井手さん:システムを構築したあと、可能な限りマイナンバーカードの取得期間を長く取るため、急遽、申請期間を1か月延長いたしました。急なスケジュールの変更はとても大変だったと思うのですが、それにも柔軟に答えていただいたおかげで、多くの方にマイナンバーカードを取得いただけたのではないでしょうか。
アプリやデジタルギフトなどを活用し、「デジタル完結」で本キャンペーンを行ったメリットはありましたでしょうか?
日髙さん:「U18マイナカード生活応援事業」は家計支援の側面もあるので、デジタルを活用したことで、スピーディーに実行できたことはとても良かったと感じています。 県民の方からの申請後に、県庁側で審査をして通知をするのですが、アプリ上での審査通知後、速やかにポイントを受け取っていただけたことが追跡できています。 これまでは、審査結果を郵送する時間や、口座に給付金を振り込むまでの時間などがかかっていましたが、今回のキャンペーンではそうした時間を省略したので、審査結果の通知後にすぐにポイントをご利用いただけたのではないかと思っています。 県庁側としても、デジタル化により手間が削減され、少人数で事業を実施することができたのはメリットと感じています。
井手さん:今回のキャンペーンでは、県民の皆様にも、デジタルの利便性を感じていただけるきっかけとなったのではないでしょうか。申請の際にマイナンバーカードを活用してもらう仕組みにしたことで、マイナンバーカードがあれば行政への申請等が手軽にできることを体験してもらう良い機会になったと思います。
今後のデジタル社会において、マイナンバーカードやオンライン申請などを使った取り組みはさらに増えていくことが予測されます。県が推進している「長崎県版デジタル社会」の実現に向け、各分野においてDXの取り組みを検討しています。そうした流れの中で、本事業がひとつの良い事例となればと思っています。