企業と従業員の距離を縮める大和証券の『永年勤続表彰』
近年、世の中の働き方が急速に変化し、テレワークを導入した新しい職場環境が普及した。その影響として、企業と従業員、また従業員同士の間に物理的な距離を生み出し、同時に企業は新しいコミュニケーションのあり方を考えることを求められるようになりました。
2020年9月に経済産業省が出したレポート『持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書』(※1)では、企業が未曾有の状況に立ち向かうためには、企業価値を生み出し続ける人材を活かす戦略が必要不可欠と言及。中でも、戦略が実行されていく中で組織と従業員に経営戦略や企業文化が浸透していくこと、そのためには対話(=コミュニケーション)の重要性をあげている。そこで現在、人事部の取り組みに注目が集まっており、社内報奨や永年勤続といった福利厚生領域の活動が国内で活発化しています。
今年120周年を迎えた大和証券グループ。同社では、勤続20年目と30年目の社員に対して、最長5日間の「勤続感謝休暇」と、社員とそのご家族等が一緒に休暇を過ごす際の一助となるよう、それぞれが使い道を選べる「ギフト」をプレゼントしています。
一見すると、多くの企業で取り組まれている施策のように思われるが、同社では、企業の成長を支える人的資本経営に注力する中で、従業員とのエンゲージメントを重要視しており、もっぱら同取り組みに力を入れています。さらに、ライフスタイルや価値観の変化に対応し、さらには業務を効率化させる観点からデジタルギフトを導入するなど、常に制度の進化を図っています。
そこで、同社人事部人事部次長の井上俊夫さん(以下、井上さん)をはじめ、同部課長代理の山谷憲輝さん(以下、山谷さん)、同部とワーク・ライフ・バランス推進室を兼務する宮地志歩さん(以下、宮地さん)に話を聞き、福利厚生としてのデジタルギフトの活用事例を掘り下げながら、ギフトの可能性を探っていきます。
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「ありがとう」をギフトで社員に伝える
大和証券(単体)には9,000人近い社員がおり、うち勤続20年目と30年目の社員は毎年400人ほど。平均勤続年数は毎年伸びていて、2019年度は11.8年、20年度は12.4年、21年度は15.1年といった具合に、如実に数字に反映されています。
井上さん: 平均勤続年数が毎年伸びている背景には、同社が営業職を対象として定年制度を撤廃したことのほか、それは働きやすさや福利厚生などを総合的に勘案して、大和証券で働き続けるという選択した社員が増えているのでないでしょうか。
勤続20年目、30年目の社員には、中田誠司代表取締役社長からの 「入社以来、大和証券グループの発展に多大な貢献をされましたことに深く敬意を表します。大和証券グループは業界No.1のクオリティを誇る会社に、そして将来は業界を越えて社会全体から信頼され尊敬される、日本を代表する超一流の会社を目指しています。『真の超一流会社』になる日に向けてともに歩んでいきましょう。なお日頃のご活躍は、親御様や配偶者等、周囲の方々のサポートの賜物であり、そのような方々と勤続感謝休暇を過ごされますとともに記念品をその一助としてお使いください」 という直々のメッセージとともに、コンビニやカフェ、ファッションからフィットネスまで幅広いシーンのギフトを取り揃えているおよそ9万円分のgiftee Boxが渡されます。
中田誠司代表取締役社長の直筆の記名は、会社としての感謝の気持ちを表しているという
従業員との関係を築き、人的資本経営を目指す
井上さん: 永年勤続の表彰は社員一人ひとりに改めて感謝の意を伝えたいというところから始まりました
そもそも、同社では従業員エンゲージメントの強化は早くから取り組み始めています。例えば、「若手からベテランまで、社員が活き活きと働き続けられる環境を整備する」ことを目的に、2010年にポイント制インセンティブを導入。45歳以上の社員を対象に、職能を上げるための取り組みに対してポイントを付与し、累計されたポイントは55歳以上の給与に反映される制度です。その中には、健康増進という項目があり、『月間1万歩を目指す』『1ヶ月の食事の内、腹八分におさえた回数を増やす』などのプログラムを達成するとポイントが加算されます。
また会社から感謝を形として贈る文化も根付いていました。全従業員を対象としたサンクスポイント制度というもあり、従業員一人に対して150ポイントが付与され自由に贈ることができます。こちらは、年に1回、溜まったポイントで健康系の商品などと交換ができます。
今回の永年勤続表彰は、今から5年前の2017年から始まりました。
同社では、急激に変化する世情に柔軟に対応し、さらなる事業成長を遂げる力を企業が培うためには、その源泉を人材と捉え、人的資本経営の重要性を掲げています。その中で、企業と従業員、または従業員同志のつながりを大切にしており、さまざまな取り組みを通じて関係性の向上につとめてきました。そこで注目したのが永年勤続表彰です。現在担当している井上さん自身も、この取り組みを楽しみにしているそうです。
井上さん: 私自身は2007年に入社したので表彰されるのは5年後になりますが、5年経てばギフトをもらえると思うと、ちょっと頑張って働こうかなと思うわけです。会社からこれまでの功労を称えてもらえる制度は、いち社員としてもすごく嬉しいと思います。もちろん言葉でも十分感謝が伝わるところはあるのですが、改めて形となることによってより深く相手に伝えることができるのかなと思います。
実はもともとは他社のカタログギフトのみを採用していました。しかし、スマートフォンを日常的に使用し、オンライン上でのギフトを贈り合うことに馴染みがある社員も増えてきたことなどから、デジタルギフトの導入を検討。
当初は「選択肢は多い方がいいだろう」という狙いにすぎなかったが、思わぬところで業務の効率化が図られたそうです。
山谷さん: カタログを社員にお渡しして、付属のはがきでギフトを申し込んでもらっていました。そうすると、社員の名前ではなく、社員のご家族の名前で申し込みがあったりするんですね。もちろんご家族と分かち合ってギフトを使っていただきたいと考えているので、仕方がない部分ではあるのですが、当時は名前に紐づけて手作業で管理をしていたものですから、名前が異なると判別がつきづらくて......。
しかし、デジタルギフトの導入を機に、社員番号に紐づけて管理するように。それまでは申し込んだかどうかを電話確認していたが、デジタル化されたことで申込みにまつわる事務処理の手間がグッと減ったと感じています。また、物理的に紙のカタログの発行が減ったことで、ペーパーレスとなり効率的になったそうです。
コミュニケーションの潤滑油にも
今後もさらなる取り組みを通じて、感謝を伝え、ながく従業員が働いてくれる会社を目指していく
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、テレワークの導入など、働き方が大きく変わった。大和証券グループもその例外ではありません。
山谷さん: このコロナ禍で、コミュニケーションのとり方は変わってきたと思います。以前はリアルで顔を突き合わせて業務を行ってきましたが、今は、ミーティング一つとってもオンラインに移行しました。今誰がどこでどんな仕事をしているのか分からない、本当に元気なのか分からないということもあります。今までは無意識にできていたコミュニケーションを、細かく細かくやっていく必要があると思います。
宮地さん: 異動をして1年ほどなのですが、テレワーク中心だった時期は、はじめましての方とのコミュニケーションに苦労しました。チャットやメールの文字だけでは冷たく感じてしまうことがあるので、いいねのスタンプ機能などを活用して、少しでもやりとりを明るくできるように気を配っていました。
コロナ禍前ならば、対面でクリアできていたことも、リアルに顔を合わせる機会が減った今、ちょっとしたコミュニケーション不足が生じてしまいがちです。永年勤続などの取り組みで、「ありがとう」を形にして伝えることで、企業と従業員、また従業員同士の間を縮めることができる。足元は現場での円滑なコミュニケーションができる環境づくりに貢献し、ゆくゆくは人的資本経営の体現するための大きな支えにつながります。デジタルギフトに、大きな価値が期待されています。
※1持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート ~ https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/20200930_1.pdf